ただ、ふたりで生きること【本編】 - 2/5

 

家康が15になる年、その年の夏は猛暑が続いていた。
夏休み中のふたりは三成の部屋で何をするでもなくだらだら過ごしていたが、棒アイスを舐めながら毎日暑いよなぁと呟いた家康を三成は唐突に押し倒した。
驚いて丸い目を更に真ん丸くした金色の瞳が三成を見上げ、三成はその瞳を見つめながら唇を重ねた。
びくりと跳ねた肩を押さえつけて、深く口付ける。
家康の両手が三成の肩を掴んだが、それは押し返そうとしているのかただ必死に掴んでいるだけなのか、三成にも家康自身にもわからなかった。
そうして三成は、半ば無理矢理に家康と体を繋いだ。
痛い痛いと泣いていた家康だったが、嫌だとかやめろだとかは一度も言わなかった。
ふたりで果てた後汗だくで重なりあって、家康がただ「三成のバカ…」と泣きながら言うのを、三成は愛し気に抱きしめてキスをした。

 

それから若いふたりは常習的にセックスをするようになった。
もちろん家の者に知られてはならない。
兄弟とはいえ他人、他人とはいえ男同士。
“恋”ではないと思う。
そんな言葉で片づけられるような想いではなかった。
離れたくても離れられない。
“ふたり”でいることがもどかしいように抱き合って貪りあって、何度キスしても何度体を繋げても足りなくて。
もう何百年も求め続けているかのようにお互いが欲しくて堪らなかった。
ずっと一緒にいたのに足りなくて、体を重ねてしまったがためにそれはもっとひどく互いを求めた。

だが、そんな蜜月は一瞬で奪われることになった。
家康が18になった日の朝。
石田家の門の前に数台の黒塗りの車が現れた。
昨夜もたっぷりと互いを求めたふたりは何やら騒がしい屋敷内におぼろげに目が覚め、まだぼんやりとしている家康にここから動かないように言った三成は部屋着にコートだけを羽織り部屋を飛び出した。
近くにいた使用人に何事か尋ねれば、見知らぬ客人が家康を迎えに来たと言っているという。
三成は血相を変えて床の間から日本刀を持ち出して表に向かった。
玄関を飛び出して石畳の庭が広がる家前へ出ると、そこには数人の黒づくめの男たちが威圧気味に石田家の人間たちを伺いみていた。
石田夫妻と、夫妻を守るように立ちはだかっている石田家のボディーガードたちの前に、黒づくめの男の中のひと際長身の大きな男が歩み出て一礼した。

「突然のご訪問申し訳ございません。私は徳川家の者。この18年間、家康様を何不自由なく無事に育ててくださったこと、誠に感謝申し上げます」

自分たちに危害を加えるつもりはないのだろうと察した石田家の主人は、ボディーガードたちを下がらせて一歩前に出た。

「どういうことかな?あの子を迎えに来たとでも?」
「はい、その通りでございます。貴方がたには後程相応の謝礼をいたします故、本日は18を迎えた家康様を徳川家にお迎えさせていただきたく」

あまりにも突然で勝手な言い分とはいえ、家康自身には特段未練もない石田家主人が了承しようとした時。
主人の横を疾風が通り過ぎた。

「貴様などに家康は渡さない!!」

日本刀を持った三成が黒づくめの男に斬りかかったのだ。
驚く石田夫妻の目の前で、だが黒づくめの男はその刀をなんなく素手で受け止めた。

「何っ…!?」

驚いたのは三成の方で、斬り殺す勢いで飛びかかったものの素手で捕らえられてバランスを崩しかけたが精神力でなんとか保った。
そんな三成を男は蔑むような目つきで見下ろした。
夫妻に対しては紳士な態度を見せていたが、三成に対しては殺気のようなものさえ感じさせた。
三成の額に僅かに汗が滲む。

「貴方は我が主を傷つけた」
「!?」
「貴方が家康様に何をしているか知っているのです」
「っ…何だと!?」

男の有り得ない言葉に動揺と怒りを見せた三成は、押さえられている刀に力を入れたが。

「三成っ!!何をしているんだ!」

冬の寒い朝だというのに薄い部屋着でしかも裸足で飛び出してきた家康に気を取られた三成に刀を返した男が、その場に跪いた。
後ろに控えていた黒づくめの男たちも同じように跪き家康に頭を下げた。
家康は、真剣を持つ三成の隣に立って三成の腕を押さえながら男たちの異様な態度に目を見張らせた。

「家康様、ご健勝そうで何よりでございます。さあ、徳川家へ帰りましょう。皆、貴方様の帰りを心から待ちわびています」
「な…何を言っているんだ…?急に徳川なんて言われてもわしは…」
「いえ、貴方は唯一徳川家の血を引く御方。18になられた今、本来の場所で本来のお役目を担う時なのです」
「意味が…わからない…じゃあ何で今まで…」
「家康!!こいつらの戯言に耳を貸すな!」

男の言葉に困惑している家康の前に、三成が立ちふさがるように刀を構えて立った。

「徳川だろうが何だろうが知ったことか!私の家康は誰にも渡さん!!」

再び三成が男に斬りかかり家康の叫び声が聞こえたが、次の瞬間、三成は男に腕を取られ地面に伏せられていた。

「―――!!」
「三成!!」

そして三成に駆け寄り不安げに地面に膝をついた家康の目の前で、男は三成の肩をはずして見せてその音が石の庭に響いた。

「っ―――!!」
「なっ…三成!!おまえ!何をす―――……」

三成に無体を働いた男にさすがに激怒した家康が男を見上げると、その厳しくも自分にはどこか優しい目を向ける彼に言葉を失い、そして自分がこの男の言うことを聞かねば三成に更なる危害を加えられるだろうことを悟った。
三成の危機に石田家のボディーガード達も対抗しようとしていたが、家康はそれを目で止めた。
立ち上がって、三成を押さえ込んだままの男に静かに微笑んでみせる。

「…わかった。あれを持ってくるから三成の肩を治してやってくれないか」
「貴方がここに戻られたら」
「ははっ、逃げたりはしないよ。わしが…三成を置いて逃げたりするわけないだろう?おまえは何でも知っていそうだから信じてくれると思ったんだがな」
「貴方のことは信じています」
「…三成、すぐ戻ってくるからちょっと待っててくれな」
「家康!!駄目だ!こいつらの言うことを聞くな!!」

三成の血が滲むような叫びに家康は愛しそうな笑みを浮かべて、あの短刀を取りに屋敷の中へ走っていった。