雪の涙

ふわふわ

さらさら

きらきら

 

小さいみつなりは、窓から外を眺めていた。
今日はクリスマスイヴ。
クリスマスのイメージにふさわしく珍しく街には雪が降っていて、雪に慣れないこの街では外では大変なことになっているが小さなみつなりにはそんなことは関係ない。
強烈な寒気によって気温はかなり低く、べたついた雪ではなく軽いさらさらとした雪が降っていた。

ふわふわ。
さらさら。
きらきら。

小さなみつなりには、それはとてもきれいで、どこか懐かしくて、そしてかなしかった。

みつなりは、サンタクロースなんていないことを知っている。
両親は何でも買ってくれた。
欲しいものなんてなかったけど、なにもいらないなんて言うと両親が少し悲しい顔するから、適当なものを言った。
でも今日はなぜだかサンタクロースに会える気がした。
雪が降っているから。

小さなみつなりは、寝る前に部屋の小さなクリスマスツリーにくつしたをぶら下げた。
自分のくつしただからとても小さい。
ここに入るものなんてあめ玉くらいかもしれない。
でも、何かが欲しいわけじゃない。
形あるものじゃなくて、だれかに。
会いたいだけだった。
小さなくつしたに入るくらいの小さなひと?
ううん。
抱きしめるとふわふわしたきもちになって、さらさらの髪と肌をなでて、きらきらと眩しいそのひとを閉じこめる。
そのひとならきっと、この小さなくつしたにも閉じこめられる。
みつなりは、ふふっと笑って眠りについた。

夜中、みつなりはふと目が覚めた。
部屋に誰かがいる。
クリスマスツリーのそばでごそごそと何かしているそのひとからは、うっすらと光があふれていた。

ああ、やっぱりきてくれた。

ちゃんと赤いお決まりの服を着て赤い帽子ではなくてフードをかぶって、ねぇ、でも光がもれてるってば。

「…サンタ…さん?」
「ぅわっ」

なんと呼んでいいかわからず、クリスマスに現れた赤い服のひとだからとりあえずそう呼んでみた。
そのひとは驚いてしりもちついたみたいなかっこうでみつなりの方を向いた。

「あはは、すまん。起こしてしまったか」
「……」

そのひとは、照れくさそうに後ろ頭をかいて笑った。
まぶしい。
みつなりはベッドから下りて、そのひとの前に座った。

「なにしてるの?」
「ん?見てのとおり、サンタクロースの格好をしてるし、ほら、袋にはたくさんプレゼントも入ってるぞ?」

そう言いながら袋の中を見せてくれて、みつなりがそれをのぞきこむと確かに包装されたプレゼントらしきものがいくつも入っていた。
ふうん、とみつなりは興味なさそうに返事をして、そのひとを見上げた。
にこにこと笑っているそのひとのそばにいるのは、とてもあたたかい。

ふわふわ。
さらさら。
きらきら。

「みつなりは何が欲しい?」

にこにこと笑ったまま、そのひとは聞いた。
欲しいもの。
そうだ、ひとつだけある。
その小さなくつしたにとじこめたいくらいの。
みつなりはツリーにぶら下げた小さなくつしたを外して、そのひとの前に出した。

「ここに入ってよ」
「…え?」
「サンタさんならはいれるでしょ?」
「わしか?ははは、わしが入れるわけないだろう?」

みつなりはムッとして、その小さなくつしたをそのひとの頭からかぶせようとぐいぐいと引っ張って押し付けた。

「お、おい、みつなりっ」

小さなみつなりは、どうにかそのひとをくつしたにいれようと、勢いあまって床に押し倒して胸元に乗りあげた。

「み、みつなりっ、無理だ、無理なんだ……っ」
「なんでっ、なんで!?じゃあなんでここに来たの!?わたしの、ものにならないならなんで…っ!」

みつなりは、そのひとの胸の上で泣きじゃくった。
こどもらしく、わがままに、一番欲しいものが、いや、ただひとつだけの欲しいものが目の前にあるのに手に入らない悔しさに憤る。

ふざけるな、貴様はそうやって何故今になっても私を反故にする!

「…三成…まだ…駄目なんだ……わしはまだ…自分にかえれない…」
「うるさいっ、おまえなんか知らない!かってにしろ!わたしのほしいものをくれないおまえなんか嫌いだ!」
「……みつなり……」

ふわふわ。
さらさら。
きらきら。

小さな手で精一杯抱きついて、涙で濡れた頬をすりよせて、淡い光を閉じこめる。
離してやるもんか。
あたたかな手が背に回されて、小さなみつなりはふわふわと眠ってしまった。

 

朝、ベッドの上で目が覚めて、外を見るとまだ静かに雪が降っていた。
慌ててベッドから飛び出て小さなくつしたの中を見てみたが、やっぱり何も入っていない。
くつしたの中には何もないけれど、あのひとはひとつだけ、みつなりに残していった。

わしは、いつでもみつなりの幸せを願っている。

そう言って額に落とされたキス。

小さなみつなりは、窓から外を眺めた。
まっしろな雪を見て、なぜあのひとを思い出すのだろう。

ふわふわ。
さらさら。
きらきら。

最期の記憶は、あのひとの、涙―――