4月17日。
このど平日にオレは仙台から滋賀までわざわざやってきた。
ああ心配すんな。一人じゃねぇ、ちゃんと小十郎も一緒だ。
何でこの日にわざわざ(2回めだ)滋賀の山まで来たかって、墓参り、…って言っていいもんか、まあ、なんていうか久しぶりに来てみたくなっただけのことさ。
オレは昔の記憶を頼りに山の中の道なき道を進み、それをようやく見つけた。
草に埋もれかけているふたつの墓標。どちらにも名前は刻まれていない。
今となってはただの木の板が刺さってるようなもんだ。よくぞ朽ちずに残ってたな。
何を隠そう、これをたてたのは400年前のオレだ。
あの時、とんでもなく面倒なことをオレに押し付けたあいつのせいでな。
石田を葬り、統一を果たして将軍となったあいつは、すべてをやり尽くした途端病に倒れた。
三ヶ月床に伏せ、とうとうヤバいってんで側近たちを呼んで遺言を書かせた。
その後、何故かオレが呼ばれて秘密の遺言を託されたってわけだ。
床に伏せるあいつは、ふっくらしていたはずの頬もこけて、あんなに鍛えていた体も一回りも二回りも小さくなったように見えた。
そして、あいつらしくない、弱弱しい声でゆっくりとオレに言った。
「独眼竜、頼みがある」
「ああ、この際だ、何だって聞いてやるさ」
「…ワシの墓を、作ってほしい」
「それは今アンタの家臣たちに命じたんじゃないのか」
「ああ、表向きは、な」
「Hum…?」
オレと同盟を組んでいた頃の、ふてぶてしくも頼もしい、顔に見えた気がした。
けど、とんでもないことを言いやがったんだ、あいつは。
「これから言う場所に、…三成と、ワシを一緒に埋めてほしいんだ」
「What!?」
さすがのオレもその頼みには驚いたさ。
でもまぁ、少し安心したって言えばいいのか、石田を倒した頃から本当に神がかってきた、といえば聞こえはいいかもしれないが、人の心をどこかに、あの決戦の地に置いてきちまったんだなってくらい、オレには感情が見えなかった。
それがちゃんと人のままだったんだな、ってな。
今までずっとバカがつくほどに『公』を貫いてきた家康が、最後の最後に『私』のワガママをみせたんだ。
それも犯罪級のとんでもないワガママだ。だが、それを断るなんて野暮なことはできねぇだろ。
「おいおい、オレにあの野郎の墓を暴けってのか?」
「そんなことをお前にはさせないさ。大丈夫だ、ちゃんと、三成はワシが隠してあるから…」
「ちっ、なんて大御所サマだ。とんでもねぇ爆弾抱えてやがったとは」
「ふふ…お前に褒めてもらえて光栄だ」
「褒めてねぇよ!で、石田はいいとしてアンタはどうすんだよ」
「それもちゃんと忠勝に任せてある。…お前は、ワシと三成を運んでくれるだけでいい…」
それも本多に任せりゃいいだろと思ったが、本多にそれをさせるのは酷だろうことはわかる。
主君を憎んでいた奴を、いくら主君の望みとはいえ一緒に埋めるなんてこと。
それは本多に同情するから仕方なくオレが受けてやるけどな、運ぶだけって簡単に言うが、骨と死体抱えて江戸から出るって相当大変だぜ?
そんなオレの心の愚痴をよそに(こいつのことだからわかってるだろうけどな)、家康はどこか遠くを見るように目を細めた。
それは柔らかな笑みを浮かべて。
「…約束、したんだ…三成は覚えてないだろうけどな」
それから家康はまだ幼かった頃に織田のおっさんと遠征に出た際近江を通り、その時にまだ寺の坊主だった石田と出逢ったことを話した。死の間際の奴から惚気話聞かされるってのも乙なもんだろ?全く聞きたくないけどな。
「覚えてないだろうから…今、一緒の墓になんていれられたら、ワシは殺されるだろうな」
そう言って笑う家康にオレは真面目に返してやった。
「安心しな。その時はアンタも死んでるから」
「ふふ、そうだったな」
お前にしか頼めないことなんだ、すまない。と、力なく微笑んだ家康は、その数日後、息を引き取った。
満足そうな笑みと、満足そうな辞世の句を残しやがって。
そうしてオレは奴の遺言どおり、本多から家康の遺体と石田の骨を預かって江戸を出て近江に行った。
あいつらが出逢った場所だっていう山の中にちゃんと埋めてやったよ。
まったく、最後までめんどくせぇ奴らだぜ。
オレはあれから何度か転生してそのたびに小十郎に会い、真田にも会い、他の奴らにも会ってきた。
だが、家康と、石田の野郎にだけは一度も会ったことがない。
おまえら、どこ彷徨ってんだ?
それとも。
オレは空を見上げた。
陽の光は、400年前のあの頃よりも、あたたかく柔らかく穏やかに感じた。
そうだな。どこにいるのかは知らねぇが、ようやく一緒になれたってんなら。あいつらは本望なんだろう。
おい、石田よ。アンタの望みどおり、アンタと家康しかいない世界にいけたんだったら、
いや、オレが言うまでもないか。
さてと、帰りますか。
帰ろうと、墓標に背を向けた時、わずかに見知った気配を感じて振り返った。
フッ、礼には及ばねぇさ。もう二度とアンタらの面倒みるのは御免だけどな。
Best wishes forever!