某は忠義厚き三河武士。
家康様が創られる世を信じて家康様のために命をかけ、…否、命をかけるなどと言えば家康様は少し困ったように悲しく微笑まれるので、全力でお守りいたします、と言いかえましょう。とにかく家康様を苦しめるものは排除する!の精神で日々奔走しているのでございます。
本日は家康様に言付けを預かってきましたので探しているのですが…あ、あそこにおられました!
走り出そうとした某でしたが、向こうから三成様がやってくるのが見え、足を止めました。
こんな時、余程の急ぎの用向きでもない限りは三成様より先に家康様に話しかけてはいけないというのは我らが三河武士の間での鉄則。家康様はご存知ないとは思いますが。
以前某はそれを知らずにとにかくお伝えしなければ!と勢いあまって目の前に迫っていた三成様より先に家康様の御名を呼んだ後の恐ろしさと言ったら…思い出すだけでも恐ろしくてとてもではないがお教えできませぬ!
しかれば、某は少し離れた場所からおふたりの様子を見守るのみ。
三成様に気付かれた家康様は我らに向けるのとはどこか違う笑顔をお浮べになられ三成様の名前を朗らかなお声でお呼びになられると、三成様はずずいっと家康様のお顔の前まで迫りました。
家康様はにこにことあたたかな笑顔で、どうした三成、なんていつものように対応しておられます。
三成様もいつもの鋭い眼差しの真剣な顔で言いました。
「今日は『いい家康の日』と聞いた」
「うん、何だそれは」
「私に『いい家康』を見せろ」
「すまん、意味がわからん」
三成様の言葉に家康様は終始表情を変えずにこにこと笑顔で答えられました。
恐らく、今一番動揺したのは某ではないでしょうか。
いい家康様の日…?
おふたりはそのまましばし見つめあ…沈黙のままお互いを見据え、そこにどんな意思の疎通があったのか某などには到底わかりかねますが、ふと三成様が、
「ならば次回でいい」
とくるりと背を見せてあっさりと立ち去ったのです。
残された家康様は、呆気にとられたような安心されたような、有り体に言えば「何だったんだあれは」というようなお顔をされて三成様の後ろ姿を眺めておられました。
さて。
…いい家康様の日とはいったい………!!?
三河武士の間でもそのような特別記念日は聞いたことがありませぬぞ!!
それとも某だけが知らぬのか!よもや今頃皆で家康様をお祝いする何かの準備をしているのでは!?
急ぎ戻って確認しなくては!
いい家康様の日。
なんと素敵な響きでございましょうか…!
もし三河武士の間でも広まっていないのであればさっそく記念日を作ってはいかがかと忠勝様にご相談さしあげよう!
と、おわっ!?
家康様への本来のご用も忘れて戻ろうとした某の前に立ち去ったはずの三成様が…!
…え?以前にも一度経験した…ものすごい殺気…命の危険を感じるのですが…
某は無事に皆のもとへ戻ることができるのでしょうか……