みついえに巻き込まれたあるモブの葛藤1分

ボクは今非常に戸惑っている困惑している慄いている。
平日の昼間だというのにそれなりに混んでいる電車で座っているボクの前に立つ人のカバンにマタニティバッジがついているのだ。
そう、「おなかに赤ちゃんがいます」というあのピンクのバッジだ。
早く席を譲れって?言われなくたって普段ならそうしているさ!だけど今ボクの前に立つその人はどこからどう見たって男なんだ!!!
ゆったりとした黄色のパーカーを着てたぶんそれなりに体格はいい、ボクよりも全然たくましい、お腹は…ちょっとその服じゃよくわからないけど、一瞬だけ上目遣いで見た顔は丸めで目は大きくてかわいい…?系だけど前髪はきりっと立ち上げて髪全体は短いし、男、…だよなぁ?
いやいや見た目とかで判断してはいけない。うん。
きっと彼、いや彼女はボーイッシュな?見た目なだけであって。
いくら多様性な時代といっても生物学的にオスは妊娠…しないだろう?あ、そういう生き物はいるか。いやいやボクが知る限りヒトはできない…え、いまの科学ならできるのか?
だってほら、お腹をさすっている彼、いや彼女のあたたかくて柔らかな笑顔といったら母親そのものじゃないか。
うん、思いきって席を譲ろう!
と決めたものの、実は彼、いや彼女の腰を抱いている隣の旦那?に殺されそうな目つきでずっと睨まれていてそれで足がすくんで動けないというのもある。
さあ、がんばれボク!

 

などと葛藤している間に短すぎる駅間のせいで次の駅についてしまい、ボクは降りる駅じゃないのに席を立って慌てて降りた。
立った瞬間旦那?に更に睨まれたが、彼女が小さな声で諌めるように旦那?の名前を呼んでいて、それがまたどう聞いても男の声で、でも雰囲気は柔らかくて、ああ幸せなんだなって思ってなぜか泣きそうになりながらホームで次の電車を待った。