太陽光

それは、この研究所の地下研究室で厳重に管理されている。
入所して3年めの私だが、上司に恵まれた私は成果を認められ、この国家機密レベルの重要な研究室の一員として配属されることになった。
それは高さ3メートルほどある透明な、しかし銃弾などでは割ることのできない頑丈な筒状の保護器の中で一糸纏わぬ姿で膝を抱えて浮いている。
その保護器の底部には何本もの太いケーブルが繋がれ別の装置へと繋がっている。
それが置かれた部屋を、私たち研究員はガラス窓を隔てた部屋から管理監視している。
それは、男の姿で短い黒髪を持ち、閉ざされた瞼の奥にどのような瞳があるのか私は知らない。
これはくだらない噂の域だが、その瞳がひとたび開かれれば、その強すぎる光に焼かれてしまうだろうと。
何故そのような噂があるのかといえば、男は光を発しているからだ。
人の形をしながら、その男は自ら光を発している。
それは決して真夏の太陽のように眩しすぎはしなかった。
柔らかくあたたかな光だった。
この光こそ国家機密であり、この光から我々は電力を得ているのだ。
地上にある発電所はフェイクだ。
この男から発せられる光を増幅し電力に変換し、驚くべきことにこの国全体の電力を賄っているのだ。
それはもう何十年も行われていると聞いた。
この男がどのように発見されここに連れてこられたのかは知らない。だが、その光に何人も犠牲になったらしいとも聞いた。
私はこの男の光を監視し、いかに小さなエネルギー量で国民のための電力を生成し、余力を他の力に回させることが仕事だ。
余力を何に使うのかは私の知るところではない。
どうせ、他国を脅かせるもの…などでも研究している奴らがいるのだろう。
男は意識があるのかないのか、口元はいつも静かに微笑んでいるように見えた。
ただ、それは日によって嬉しそうであったり、どこか哀しそうにも見えた。

ちょうど他の研究員たちが食事や資料室に行ったりと、この監視室に私一人になる時間があった。
私は、男を眺めた。
今日は嬉しそうに微笑んでいるように見える。
これは、何を考えてその中でおとなしく光を発しているのだろう。
私はあまり情緒的な感情を持っていないなどとよく言われるが、これのことについて考える時、私はひどく自分の中に人間らしい感情を覚える。
人の形をしているがこれは神なのだろうか。いや、神が人間に捕らわれるわけなどない。
ならば宇宙人か、それとも未来から飛んできた将来の技術の賜なのか、はたまた過去の妖怪か。
そもそも『生きて』いるのか。
男が発している光はいつもどおりだ、異常はない。
ただ、ふいにその光が懐かしく感じた。
その時、誰かに名を呼ばれた気がした。
だがこの部屋には今私しかいない。
もう一度、脳に直接響くように、柔らかく懐かしい声が聞こえた。

みつなり―――

私は、男と『目が合った』。
ああ、そうだ、これの瞳は眩いほどの陽光の色だったな。

次の瞬間、私はその光に『焼かれて』意識を失った。

 

目が覚めると、そこは所内の医務室のようだった。
固いベッドに寝かされていることと、薄く見える視界の端に医薬品の棚が見えたからだ。

「やれ三成、目が覚めたか」
「……刑部か」

刑部は私の同僚であり友であり、全てを信頼している数少ない一人だ。

「ぬしが倒れたと聞いてまた食わず眠らずにあれを眺めていたのかと思ったが、やれ、あの光に焼かれでもしたか?」
「…そう、かもしれない」

私がそう呟くと刑部は僅かに驚いたようだった。
私は、たしかにあれと目があったのだから。

「ふむ、我にはあの光は常から眩しすぎてな。仕事とはいえあまり見やることはできぬものだったが、ぬしはいつもあれを直視しておったからなぁ。そうか、ついにあれを見たか。して、どうだった?」
「…あれは、私のものだ」
「ひひっ、そうかそうか。これは楽しくなるであろうな。懐中電灯と蝋燭でも用意しておくか。ひひっ」

小一時間休んで異常を感じなければ今日は帰ってよいということだ、と刑部は言い残して医務室を出て行った。
帰るといっても研究所の隣の社宅だ。
私はもう、そこへ戻ることはないだろう。

 

気付けば、私はその頑丈なはずの保護器を破壊していた。
どうやって破壊したのかはわからない。
割れた保護器から解放されても膝を抱えて浮いたままの男に、私は自分が着ていた白衣をかけて腕に抱き、研究所を飛び出した。
人里離れた山奥に隠すように建てられた研究所を出ると、そこはもう真っ暗な森の中だ。
私はその暗い森を、光を抱きながら走った。
これを失ったこの国はもうすぐ文字通り真っ暗になるだろう。
代替の電力では何時間も持ちはしない。過去に使っていたらしい発電装置も復旧させるのは難しいだろう。
これを失うことなど有り得ないと、リスク管理もせず更なる力を求め、この光から兵器を作ろうとした愚か者たちの行く末など私は知らない。
この光は私のものだ。万民を照らす必要はない。私だけのものなのだ。

「三成っ…」
「なんだ」
「お前はこれで良かったのか…?」
「貴様が私を呼んだくせに何を言う」
「それは…つい、懐かしくてな」

困ったように笑った男は、だがそんな、それだけの理由で私が目覚め、この国から光を奪わせたとなれば天からどんな罰を受けようか。

「貴様は、この国を照らすのは良くとも兵器に転じられるのは我慢ならなかったのだろう?」
「…」

私の腕に抱かれながらつと視線を逸らせたのを感じ、私は薄く笑みを浮かべた。

「だいたい貴様がむやみやたらにその光を振り撒くからこういうことになるのだ」
「むやみやたらって…」
「私の闇で中和してやる」
「う、うん…」

男は顔を隠すように私の胸に額を押し付けた。
私は走るのをやめ、近くの木の根元にこれを下ろした。
肩からかけていた私の白衣をゆっくりと剥ぐと、裸の胸が晒され、瞬く間に周囲に光が満ちた。
仕方ない奴だ。言葉で語らなくともその光で喜びを表現しすぎだろう。

「み、三成っ、ここ、でか…?」
「こんなに光らせておいて何を言う。貴様が光を発したままでは見つかるだろう」
「それはそうだが…」
「つべこべ言わずに私を浴びろ。家康」
「三成…」

淡い光を放つ家康に口付け、肌をなぞればその身体は簡単に跳ねて私を受け入れた。

もう、この国に光はない。
光は私の、腕の中―――